両立

9日、上井草グラウンド。始動した新チームにあって3月は体作りを重視する期間、ウエイトルームからプロテインを
片手に出てきたCTB宇野明彦主務が汗を拭います。

「ちょうどよく動けているかなと思っています。あとは自分は単純に弱いので重りをあげるとかそういう強さのところを
大事にしたいです。体重の部分では大丈夫なので中身をもっといいものに変えられるように。」

2年生の終わりの副務就任とともに一度はプレーヤーを引退したものの昨年11月に復帰、最終学年は主務とプレーヤーの
両立に挑戦、引退後75キロまで落ちた体重はウエイトトレーニングを続けて目指す数字という85キロをキープします。

神奈川県立横須賀高校ではキャプテンを務め、早大入学後はルーキーイヤーから頭角を現して、対抗戦にも3試合で
スタメン出場するなど同期の齋藤直人選手、岸岡智樹選手、中野将伍選手らとともにBK陣の新戦力として躍動、
プレーヤーとして順調なスタートを切るものの2年生の終わりに副務に就任するとプレーの第一線から離れることに。
当時を振り返ります。

「最初は総務の方と主務になる小柴さんから説得されていたのですけど、二人だけの説得で自分の選手人生を捧げる
のは…。3歳から(ラグビーを)やっているので、そんなに簡単に決意できるものではなかったですし、その間もずっと
『(副務は)僕ではないと思います』と話をしていました。」

副務が決まらないまま予餞会まで残り10日を切ると、1日2回の会議を持つ日もあったという学年会議を連日開催、
議論や投票を重ねる中で仲間からの厚い信頼を感じます。

「『お前なら任せられる』とか『一番信頼できる』とか…そういう言葉が自分は素直に刺さりましたし、それを人の
言葉から聞くことでより重みを感じました。全員の後押しがあって、みんなの期待とか信頼を裏切れないですし、その
信頼された部分を大事にしないといけない、その責任を果たすことで日本一に繋がるという判断をしてくれたのなら
自分が全力で(副務を)やろうと思いました。」

一度は手にしたアカクロジャージの夢よりも日本一の夢を優先し、プレーヤーを引退。副務としてチームを裏方で
支える日々を過ごしながらも、春シーズンを終えると夏合宿までの落ち着いた期間の中で感情の変化が生まれます。

「元々(副務が)忙しいという理由から(プレーヤーを)辞めることになったのですが、実際に春シーズンをやってみて
全く出来ないという訳じゃないと思いました。その中で最初の目標、自分がグラウンドに立ってアカクロを着て日本一と
いう目標を断念するべきじゃないというか…。チームの日本一が第一なんですけど、そこに対して自分がもっと選手と
しての可能性を残せる期間、挑戦できる時間があるのでやりたいなと。それを先輩達と話している時に、選手の先輩から
『お前はやった方がいいよ』と結構言われて、どんどん心境が(選手と両立したいと)変わっていきました。」

それでも130人を超える部員のマネジメント、パートナー企業やラグビー協会との調整と内外に多くの仕事を抱える
スタッフ業務の中で、いずれそのリーダーとなる存在である副務が選手兼任となることで仕事が疎かにならないのかと
不安視する周囲の声もあり、簡単に了承はされず。

「今の卒業された4年生の先輩は近田さん(2015年度主務)が主務で(選手と)両方やられているのを見ているの
ですけど逆に僕達の代は誰も両立しているのを見ていないのでそこに対する不安だとかもあってどうなんだと…。」

周囲の協力を得ながら、協会対応など様々な仕事を洗い出して分担表や組織図を作成、責任者を明確にする作業を
繰り返し、毎週のように監督室へ。

「先輩に協力していただいて…小柴さん(前主務)とも相談しながら、色々と進めてマネージャの協力も得て、これなら
いけるというのを提示して、長い期間を経て相良さんも了承して下さりました。」

秋も深まった頃にプレーヤーとして復帰、1年ぶりの実戦は早明戦前日の内ゲバ。グラウンドに立つと青空を見つめて
大きく息を吸い込みます。

「全員が見ている中で、皆が期待してくれて『頑張れよ』といろんな声をかけてもらってプレーをしている中でずっと
楽しい時間、こんなに短いのかなと思いつつも充実した時間でした。あまりコンタクトプレーが得意じゃないのですけど、
ラグビーの醍醐味であるその部分で楽しいなと素直に思えました。」

プレーヤーとして再びアカクロを目指す思いの一方で、選手が抱く感情を自身で感じ取れる事もプレーヤー復帰の大きな
意味と宇野明彦主務は話します。

「チームを円滑に回すのが主務の仕事、そこは絶対に疎かにしちゃいけないです。クラブハウスの中だけで働いていると
それをいくらやっていても選手の現状というのは見えないので…。選手の現状を知って、一番本音が出るのが練習後とか
些細な会話の中。それをコーチとの両方の架け橋として、自分がその位置に立つのが選手に復帰した意味だとも思うので、
みんなの意見を集約して、いろんな人と話しながら前に進みたいと思っています。」

選手として主務として多忙な日々の中にも、寮の同部屋で1年をともにし、プレーヤー復帰の後押しをしてくれた小柴大和
前主務から送られた言葉を胸に刻みます。

「小柴さんは本当に自分の事を理解してくれ、よく相談にも乗ってくださりました。その中で『自分で選んだ道だから絶対に
やり切れると思うけど、その中で自分だけでやらないことも大切にしないといけないよ』という話をもらいました。確かに
やり切るのは自分なのですけど、学生スタッフと選手みんなと協力して一つのチームでありたいなと思います。」

プレーヤーとしては激戦区CTBのポジションに挑戦。中野将伍選手、桑山淳生選手と高くそびえ立つ同期の壁に挑みます。

「2コ下にも中西、1コ下の平井とか、将伍や淳生も含めて全員違うものを持っているので自分にしかないものを作らないと
いけないと思っています。誰よりも動き続けるメンタルとフィットネス、体を張り続けるという部分は自分が一番大事に
していかないといけない部分と思っているのでそこで勝負していこうと思っています。一回のインパクトを与えられる
選手ではないので、動き続けることができる、その中でチームを鼓舞できる存在になりたいと思っています。」

グラウンド内外で誰よりも動き続ける…高いレベルでの両立を求める宇野明彦主務のラストイヤーが始まりました。
【鳥越裕貴】



9日の練習後、笑顔を見せる宇野明彦主務。「復帰して今は毎日充実していますし、この復帰をさせてくれた同学年の
学生スタッフにも監督にも、後押ししてくれた先輩にも期待を裏切れないですし、ここでアカクロを着て日本一になるのが
最大の恩返しになると思うので、今年一年覚悟を決めて頑張っていこうと思っています。」

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