背中

10日、2万観衆で埋まった秩父宮での対抗戦・帝京大戦。9年ぶりの公式戦での帝京大戦勝利は、サヨナラトライでの決着という
劇的なものとなりました。マンオブザマッチに選ばれるなど勝利の立役者となったSH齋藤直人主将がラストシーンを振り返ります。

「順目にすごい呼ばれていて投げようとしていたのですけど、あのエリアになったら特に前を見るようにしていて、空いた!
…と思っていきました。一番最短…ボールに近いところでゲインできるのが効率的なので。でも最後、自分が取りましたけど、
(フェーズを)重ねていてもどこかで取れたと思います。」

ゴール前密集サイドを乗り越えた齋藤主将がインゴールにダイブすると次の瞬間、背番号9を中心にアカクロジャージの歓喜の輪が
出来ます。途中、点差が引き離されそうになっても「諦めるな」「切らすな」とチームを鼓舞、下級生も焦りは無かったと口を
揃えます。試合中のリーダーシップだけでなく、誰もが認めるのが日頃からのラグビーへの取り組み姿勢。

「チームで一番努力する人。一番上手いのに更にそこで一番努力する…チーム全体の先頭を走っていく尊敬できる人です。」
(CTB長田智希選手)
「本当に普段は優しい人なのですけど、ラグビーの時は厳しいです。自分で試合を決定付けるトライをされていて、頼れる
キャプテンですし、これから日本を背負っていくSHになる方と思うので尊敬しています。」(FL相良昌彦選手)

と下級生が話せば、同級生も続けます。

「この部活で一番ストイック、4年になって更にストイックになって、同期でも本当に尊敬しています。」
(HO森島大智選手)
「背中で引っ張るタイプ。背中で引っ張ってくれている分、言葉も重いです。努力し続けますし、皆がついていきたくなる
ようなキャプテンです。」(LO三浦駿平選手)

下級生も同期も誰もが認めるチーム1の努力家であり、取り組み姿勢そして言葉でチームを牽引するキャプテン。人気チームの
リーダー、周囲の注目を集める存在だけに取り囲む記者団がその重圧に想像を膨らませ、質問をぶつけるものの齋藤直人主将は
首をかしげます。

「キャプテンだから苦労しているとか全然ないので…。春はケガもしていましたし、周りに助けられているなとつくづく
感じます。3つ上の(桑野)詠真さん、1つ上の佐藤真吾さん、歴代のキャプテンの方と話しても、対抗戦中はすごい悩むことが
多いと聞いていたのですけど、いまのところ悩みがないので(笑)。」

本人の自覚こそないものの、周囲から見るとまだキャプテンという立場を意識しすぎていると指摘されたと頭をかきます。

「この前、選手とチームスタッフと4年生の役割とかを話しあう機会があったのですけど。そこでのグループワークでは周りから
『もっと自分らしさを出せよ』とか言われて…。自分的には自分を出してやっていたつもりなのですけど…。いい意味で
わがままにやっていこうかなと。」

1年生の頃からHB団を形成する盟友・SO岸岡智樹選手もそこからの変化を感じ取ります。

「キャプテン像に縛られていた時期…夏前とかは一人で背負っているのかなと…。最近はリーダー格も固まってきて、下級生も
発言しやすい中で直人自身の責任、仕事が分散されてきて良い雰囲気でチームは動いていると思います。良い意味でわがまま感が
出てきたというか、”齋藤直人”としてプレーできているところが最近はいい風に見受けられます。」(SO岸岡智樹選手)

周囲のサポートに支えられ、齋藤直人主将はプレーヤーとしてより高みを意識、W杯の話題に変わると表情が引き締まります。

「小さい選手の活躍というのは刺激的でした。特に南アのハーフの2人は印象的でした。サイズは言い訳にならない…自分の
努力次第で、ああいったレベルで戦えるんだなと。(日本代表は)本気で狙っていたので、ちょっと恥ずかしいですけど、
そういう意味では悔しかったですし、4年後は絶対に出場したいという気持ちは強まりました。」

重圧や責任感から歴代のワセダの主将が4年生時にパフォーマンスを落としてきた中、齋藤直人主将はその背中でチームを
『荒ぶる』へと牽引します。【鳥越裕貴】



後半、サヨナラトライをあげてメンバーと喜びを爆発させるSH齋藤直人主将(背番号9)。W杯での日本代表の戦いぶりを見て
「日本代表の皆さんが口を揃えて言う信じ続けること、それが大事だなと感じました。同時に自分たちを信じるためにも、
並大抵ならぬ努力が必要だなとも感じました。」

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