For One

11日、大学選手権決勝。5万7千大観衆を新国立競技場に集めて行われたメイジとの再戦は前半から攻守で前に出続けてライバルを圧倒、
対抗戦の早明戦大敗(7-36)から始まった『reborn(リボーン)』…40日のワセダ再生計画は『荒ぶる』という最高の終わり方を
迎えます。

「対抗戦は完敗、メイジさんからは細かいところに拘る事の大切さを学びました。あの試合ワセダが勝てるスキは一つもなかったので、
それに対して1ヶ月間、明治大学に勝つためのクオリティというものをしっかりと求めてそこを『ワセダクオリティ』と置き換えて
しっかり自分たちで準備してきました。」(SO岸岡智樹選手)

攻守に受け身に回って完敗した12月1日の一戦を振り返って、出来ていなかったのは前に出る姿勢の作り方と指揮官が話します。

「選手権のノックダウンの中で、フィジカルを鍛え直すわけにもいかないです。見直した時にメイジが当たり前のようにやっている
ことを我々が当たり前にできていなかった。我々のように体が小さいと言われている方は、仕掛けなきゃいけないのに、仕掛ける準備
すらできていないと…。」(相良南海夫監督)

仕掛ける姿勢、戦う姿勢を取ることを『勝ちポジ』と呼び、練習の最初から最後まで常にこのフレーズを使って意識の徹底を図ります。
言葉がチーム内で持った意味を齋藤直人主将が振り返ります。

「誰にでも出来ると言うところが大きかったです。上のチームから下のチームまで誰でも出来る事だったので、意識しやすかったです。」
(SH齋藤直人主将)

成果を最初に出したのはジュニアチーム。10月の練習試合で50点近く差をつけられた明治ジュニアチームと昨年末(12月26日)に
上井草で再戦。26-31と敗れはしたものの『勝ちポジ』の声が試合を通して途切れることはなく、前に出続けて相手のミスを誘ったその
戦いぶりは方向性の間違いのなさを再確認するとともにAチームのメンバーに勇気を与えます。

「メイジに(対抗戦)負けてからワセダがやりたいことをジュニアチームが体現してくれました」(FL幸重天副将)

「相手が高校日本代表とか候補が多い中で、僕達の無名のジュニアチームが体を張っていい試合をしていたので、僕達(Aチーム)が
(決勝で)出来ない訳がないと気持ちが入りました。」(LO三浦駿平選手)

下のチームは練習試合を通して、Aチームは大学選手権でそれぞれに刺激を与えながら『勝ちポジ』をチーム全員で追求。更には下の
チームのメンバーによる元日ゲバ(部内マッチ)、決勝戦前日にはノンメンバー全員で最後のヘッドスピードと伝統行事もやり切って
迎えた上井草グラウンドでの最後の決意表明、齋藤直人主将は涙で言葉を詰まらせ、そして大きな声で沈黙を破ります。

「アカクロを着れる者として、ワセダの9番として、キャプテンとして、プライドを持って戦い抜きます。最後まであきらめずに走り、
声を出し、体を張る。全員で荒ぶるを歌います!」

40日間の準備のプロセスを見守り、自身も主将として12年前に『荒ぶる』を経験している権丈太郎コーチも、決勝戦前最後の練習を
終えて引き上げて来ると、清々しい表情で言い切ります。

「(準備は)バッチリです!任せてください!」

迎えた決勝戦。キックオフから『勝ちポジ』を取って、攻守に積極的に仕掛けるワセダは前半だけで4トライを奪って31-0と完璧な
試合運び。後半、メイジの猛追を受けながらも、2トライを追加して11年ぶりの大学選手権優勝を決めます。『勝ちポジ』が選手の
意識を変えて、攻守に良い循環をもたらしたと指揮官が話せば、手首に巻いたテーピングに『勝ちポジ』と書き入れたFW陣の核、
LO三浦駿平選手も笑顔を見せます。

「12月の早明戦で欠けていたのはアタック、ディフェンスの攻める意識。今日はアタック、ディフェンスともに一人一人攻めて
いこうと、前半から自分たちのやりたい試合ができました。」(LO三浦駿平選手)

テレビインタビューに続けて対応した齋藤直人主将、岸岡智樹選手も記者から『勝ちポジ』がチームに与えた影響を聞かれると
口を揃えます。

「1対1のタックル、タックル前の姿勢の部分を40日間意識してきて、そういったところを80分間やりきれたのがこの結果、特に
前半のスコアに繋がったかなと思います。」(SH齋藤直人主将)

「対メイジに対して、自分たちから仕掛けるマインドを持つというところ。前半は僕らの入りがかなり良くて、ディフェンスでは
前にプレッシャーをかけることができて、アタックではボールをもらった選手が1センチも2センチでも前に出るという意識が
得点につながったかなと思います。」(SO岸岡智樹選手)

表彰式、胴上げ、荒ぶる、ウイニングラン…全てのセレモニーを終えて、齋藤直人主将は記者会見場へ。記者から「あまり喜んで
ないように見えるが…」と質問されると戸惑いながら答えます。

「(これでも)自分的には喜んでいるつもりなんですけど…。」(SH齋藤直人主将)

会場が笑いに包まれ、そして続けます。

「終わった瞬間は本当に安心しましたね。この一年もそうですけど、早明戦以降、本当に負けたら終わりの戦いで…。早明戦で
ああいった形で敗戦して、どうにかしてチームが変わらなければいけないというプレッシャーをチーム全員が感じて、それを
跳ね除けてチーム全員が努力してきた40日間だと思います。試合前練習から円陣まで、支えてきてくれた多くの人や試合に
出られない部員の分まで自分たち23人が結果を出して、そういったメンバーのこれまでの努力を肯定しようと話していたので、
勝って全部員のこれまでの努力を肯定できたことが良かったですし、キャプテンとして安心しました。」

LO三浦駿平選手も、一連のセレモニーで一番印象に残った場面を聞くと、荒ぶるよりもウイニングランよりも、ノンメンバーの
部員がグラウンドに降りてきて抱き合った瞬間と迷わず答えます。

「同期の笑った顔が一番嬉しかったですね。4年間ずっと一緒にやってきて、メンバーに選ばれたくても選ばれなくてという
メンバーの気持ちを背負って試合をしてきたので、みんなの気持ちを背負ってしっかり勝てたというのが良かった。」
(LO三浦駿平選手)

互いに支え合ったメンバーとノンメンバーが一つになって掴んだ荒ぶる…都内ホテルに移動して行われた祝勝会、その途中で
4年生全員で壇上に上がり『荒ぶる』を歌うよう司会者に勧められます。荒ぶるに先立ち、齋藤直人主将が挨拶に立つと
学校関係者、OB、ファン、保護者と祝勝会に参加した全ての人への感謝、そして後輩への激励の言葉を口にした後、通例では
4年生だけの『荒ぶる』となるところで意外な言葉を口にします。

「『荒ぶる』を歌いたいと思います。(参加者)全員で円陣を組みたいと思います。何度でも歌いたいです。一度目は自分の
ソロで始めて、二度目は(参加者)全員で歌いたいと思います。」

準決勝・天理大戦での完勝後、「昨年の先輩達がいたからこそ。準決勝を一回経験できていたのが僕らとしては精神的に
大きかったので先輩達に感謝しています」(FL幸重天副将)と話した佐藤真吾前主将ら一年上の代の卒業生は時間を見つけては
上井草グラウンドや試合会場を訪れて、後輩達を激励。この日の祝勝会場にも訪れた佐藤組を始めとするOBや、部員父兄、
ファンを巻き込み、国立よりも大きな円陣で会場に高らかに響いた異例の『荒ぶる』は、チームスローガン「For One」が
目指した姿そのものだったのだと思います。【鳥越裕貴】



記念撮影で喜びを爆発させる選手、スタッフ。主将としてコーチとして『荒ぶる』を勝ち取った権丈太郎コーチに決勝戦後に
前日の「バッチリです!」の根拠を聞くと「根拠はないのですけど自信はありましたね。単純に4年生達とか色々見てこれはもう
勝つだろうと。(自身が12年前に経験した空気と重なり)勝つ気しかしなかったですね。」(権丈太郎コーチ)

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