副将

25日、地元主催の上井草グラウンドでの優勝パレード・優勝報告会。報告会の壇上で”荒ぶる”をリードしたのが幸重天副将。
キャプテンソロで始まる部歌にあって、この日はサンウルブズの活動で齋藤直人主将が欠席、巡って来た大役に

「めちゃくちゃ緊張しましたね。」

と苦笑い。壇上の挨拶では、齋藤主将欠席のお詫びから始まり、企画への感謝、決戦当日の地元住民の見送りなどの
エピソードを交えながらの地元への感謝、ファンへの感謝、後輩への変わらぬ支援のお願い…とまとめて、チームメイトからも
賞賛の声が上がる完璧な挨拶、「高校の(主将の)経験が生きたかなと思います」と胸を撫で下ろします。

その高校時代は九州の名門・大分舞鶴の主将として活躍、意気揚々と上井草の門を叩くとそこで待っていたのは別次元の世界。
アカクロを着る先輩は勿論、ルーキーイヤーから活躍する齋藤直人選手、岸岡智樹選手、中野将伍選手ら同期の存在を

「あいつらすげーなと。あいつらと一緒にやることはないんだろうなと…。4年とかで出れたらいいなと、どこかでアカクロ
着れたらいいなというのが正直なところでした。」

同じバックローのポジションでも柴田徹選手、増原龍之介選手らが次々に1年生でアカクロデビュー。自らとサイズがそれほど
変わらない同期が出場できている事実が悔しさを倍増をさせ、「どうやったら超えられるのだろう…」と考え続ける日々、
行き着いた結論は

「タックルを愚直にやり続ける事。練習を試合をケガせずに出続ける事。」

2年生になると鋭いタックルを武器にレギュラー定着、以降3年間アカクロのFLとして責任を全うし続けます。その姿を同期の
岸岡智樹選手は

「グラウンドの中にいて、縁の下の力持ちじゃないですけど影で支えてくれる。今年は誰より一番試合に出ているんじゃない
ですかね…選手としてイチFLとして信頼できる男ですし、最前線でFWの中でリーダーシップを発揮してくれる頼もしい存在」

と話します。春シーズン、齋藤直人主将がケガで離脱、岸岡智樹選手が教育実習などでそれぞれチームを離れた期間も常に
試合に出続けた副将が意識したのは、齋藤直人主将とのバランス。

「あいつ(齋藤主将)が出来ないことを補っていけたらなと思っていました。SHというポジション柄、体を当てる
シチュエーション自体が少ないのでそういうところは自分がやっていかないと…と思っていましたし、表に出て盛り上げる
とか雰囲気作りだったりも(自分の仕事と思っていました。)」

試合中はその背中で見せる仕事人でありながら、試合を離れると「副将というよりも宴会部長かな」とおどけます。
北風祭や餅つきなど部のイベントでは常に笑いの中心でありながらも、”宴会部長”が一番意識したのはチームの日常の
雰囲気。

朝5時半から始まるウェイトトレーニング、眠さでチームの空気がよどんでいると見れば、「ヨシ、行こう!!」と声を
張り上げ、ムードを高めます。一日一日ムードを意識して言葉を発するその姿を3年生・下川甲嗣選手は

「ウエイトとかもあの人が盛り上げてくれていました。チームの雰囲気、空気が悪かったら締めることもあるし、
落ち込んでいる時だったら、皆を元気づけることを言ってくれました。幸重さん自体がオンとオフをしっかりしている人
なので、すごい人だなと思います。」

と振り返ります。練習中から一番に声を出す事を意識しながらも、副将という立場からチーム全体を考えすぎて、
言いたい事が言えなくなった時期も。夏、「良いことも厳しいことも言ってくれる仲」でチームで一番が仲が良いという
4年生・三浦駿平選手とお酒を酌み交わしながら言われた一言が響きます。

「『気にしすぎて、言ってないことあるだろ。もっと強気でいいんじゃない?周りをみて気にしすぎじゃない?』…と。
そこからFWの中でいろいろ言えることも増えました。(言い過ぎて)最後らへんまで(3年生・丸尾)崇真に怒られたり
していましたけど…、言い合いになってシュン…となったり(笑)。」

時に落ち込んだと苦笑いしながらも、後輩の側から見れば距離が近く意見を聞いてくれる先輩。3年生・下川甲嗣選手が
話します。

「副将だけどすごいフレンドリーで。ちょっとチームに不満とか、こうした方が良いんじゃないということも話しやすい
バイスキャプテンだったかなと思います。僕以外の後輩も接しやすく、やりやすかったと思います。」

大切にしてきたチームの雰囲気がドン底まで沈んだのが12月の早明戦。幸重天副将自身も試合後は呆然としていたものの
翌日から切り換えます。接点で食い込まれて「FLとして恥ずかしいプレー」と悔しさをエネルギーに変えて、体を当てる、
走る…一段と激しさを増した練習の中にも明るさは大事と声を出し続けます。質量ともに充実の練習を積み上げて迎えた
2日の準決勝、「天理にこれだけ勝てるんだ」という当事者達でさえ驚く完勝でチームは完全に自信を取り戻し、最高の
準備を経てメイジとのリベンジマッチへ。

ビッグゲーム前恒例の寄せ書きの儀式、大きな模造紙に書き込まれたメッセージに目を通すと、その背中を最後に押して
くれたのは1年生時からポジションを争ってきた柴田徹選手ら同期からのメッセージ。

「『小さなFLのタックル見せてくれ、頼むぞ』…と。あいつらからの言葉は一番ジーンと来る、心に刺さりました。
良いライバル、似たような選手達ばかりだし、その中で出るという事はあいつらの分まで戦わなければならないと。」

トップレベルでのラグビーは大学までと決めている幸重天副将にとっても人生ラストマッチ、寄せ書きに大きな字で
『捨身』と書き入れます。文字通りに体を張り続けて、当て続けて全てを出し切った末に迎えたノーサイドの笛。

「(ノンメンバー)皆が喜んでくれて、こいつらの為に勝てて良かったし、一緒に”荒ぶる”が歌えるんだと感情が
こみ上げてきました。最高でしたし、4年間報われたなと思いました。」

チームの為に体を張り、チームの雰囲気を大切に声を出し続けた一年間。試合会場で派手なプレーはなくても、この日の
ファン交流会では一番人気の司令塔・岸岡智樹選手に続く待ち行列が出来ていました。【鳥越裕貴】



優勝パレードで先頭を歩く幸重天副将。「ワセダでラグビーが出来て幸せだなと。これだけの色々な人が応援してくれて
それで結果が残せて、みんなが喜んでくれる姿が幸せでしたね。」

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