分析

10日、齋藤組追い出し試合。分析業務を担当、アナリストとしてチームを支えた鈴木麟太郎さん、瀬尾勝太さんもアカクロジャージを着て、
同期とグラウンドを駆け回ります。ともに高校までプレーを続けたもののワセダラグビー部に憧れて…という訳ではなく、一般受験で
”早稲田大学”に合格。大学生活をどう過ごそうかと考えていた時に部の公式ホームページにアナリスト募集欄を見つけます。

「浪人中に(2015年)W杯で南アフリカ戦勝利の時に分析が貢献したと言う話を聞いて…。それで興味を持って説明会に行きました。」
(鈴木麟太郎さん)

「(大学で)一生懸命取り組める事を探した時にラグビー部には選手だけじゃなくて分析やトレーナーがあると。自分は体格もスピードも
ないですけど、ラグビーの知識や戦術の部分ではプレーするより得意と思っていたので、チームに貢献できるのではないかと。」
(瀬尾勝太さん)

希望を抱いて、ラグビー部の門を叩いたもののすぐに現実とのギャップに戸惑いを感じます。グラウンドに出て、練習や試合のビデオを
回し続けて、その後分析部屋で同じ試合を5回、6回と見直してプレーを数値化する作業。下級生時代はコーチ陣や先輩に言われた事を
繰り返す日々に存在意義を見失いかけたと口を揃えます。

「自分がイメージしていたのはデータとかを取ったら選手の変化がダイレクトに分かるのかなと思ったのですけど、何も分からないとか
データが無駄になる事もありましたし、頼まれたデータを取っても結局何も使われずに時間だけ使ったこともありました。自分で何かを
行おうとしてもアイデアが出なかったりして不甲斐なさを感じていましたし、自分はチームに貢献出来ているのかと…。」
(鈴木麟太郎さん)

「チームやコーチにこういうこと調べて、こういう映像を切り取って…と言われたことをするだけの状態で『正直、これ誰でも出来るん
じゃないか』…と。言われたことをやるだけで精一杯、自分から作り出すような分析ができなかった時は辛かったですね。」
(瀬尾勝太さん)

それでも投げ出さずに地道な作業を続けられたのは同期のプレーヤーがグラウンドで頑張る姿をビデオ越しに見続けていたから。その
姿が仕事のモチベーションになっていたと二人は振り返り、鈴木麟太郎さんは印象的な試合を一つあげます。

「新人早明戦。同期が戦っている姿をみて、推薦校だらけのメイジに善戦(引き分け)した時に、その姿に感動しました。その試合が
鮮明に残っていて、自分も頑張らなきゃいけないと原動力になってました。」(鈴木麟太郎さん)

やりがいは自身の取った数字でチームが良い方向に向かっている事を実感出来る事、3年生時の早慶戦で感じた喜びが忘れられないと
鈴木麟太郎さんは話します。

「ディフェンスから起き上がる数値を僕が取っていて、(3年の)春はそれがすごい低くてディフェンスがガタガタだったのですけど、
それをコーチが意識させて、数値が早慶戦で爆発的にあがって、実際ディフェンスがすごい良くて、見ていても負ける気が全く
しなかったです。自分が数値を取ったことで選手の意識や行動が少しでも変わったのなら…本当にやりがいを感じましたね。」
(鈴木麟太郎さん)

自身の入学時からの成長を感じたのは当時の古庄史和コーチから3年生の終わりにかけられた言葉、鈴木麟太郎さんは続けます。

「(1年の頃は)こういったテーマで映像を持ってきて…と言われて、持って行っても怒られて、『お前は何のセンスもないな…』
とよく言われ続けていたのですけど…。最後の最後の方で『オレはこれを求めていたんだよ!』『これ、いいね!』とか言われた時
に認められた気がして本当に嬉しかったですね。」(鈴木麟太郎さん)

上級生となり相良南海夫監督が就任、学生主体の雰囲気はグラウンドだけでなく分析部屋にも。「今シーズンも相良さんに
『自分から思うことをコーチにどんどん言っていいよ』と言われて…」(瀬尾勝太さん)。仕事が無くても、海外の試合から
他大学の試合まで普段からずっとラグビーの試合を見ているというラグビー好きの瀬尾さんのハートに火を点けます。

「スーパーラグビーとかよく見るのですけどこのサインプレーいいな…と思ったらそれを切り取っておく。シーズン中にそれを
溜めておいて、武川さん(コーチ)とかに『このサインプレーどうですか。一発のサインプレーとか必要な時期が来ると思うので
使ってください』と。相手の分析も、自分が思った映像をコーチに送って『相手にこういう印象があります』と自分の意見を
言うようになって、実際に試合の時に分析通りになる事もあってやりがいもありました。」
(瀬尾勝太さん)

真摯に分析に打ち込む姿勢でプレーヤーの信頼も勝ち取り、選手の側から情報が欲しいと求めてくる事も。その分析は自チームや
対戦校の戦術だけでなく、ライバルチームのプレーヤーの特徴に及ぶ事も。齋藤直人主将は

「相手のプレーヤーのタックルが右肩、左肩どっちが苦手かと個人的に聞いたりしていました。(そういう細かい事にも相手の)
試合を見てやってくれたりしていました。」

と感謝します。最初は「選手じゃない自分が言うのは気が引ける部分もあった」(瀬尾勝太さん)と言うものの同期プレーヤー
を中心に個別にアドバイスを送る事も。瀬尾さんはラストイヤー、三浦駿平選手と二人三脚でそのプレーの改善に取り組み、
試合前後にプレビューとレビューを繰り返します。

「毎試合、駿平がボールを持ったところを(映像で)切り取って、すぐ倒れちゃうのをどう立つかという事や、外の選手を
巻き込んだ方が良いんじゃないかと、毎試合レビューしていって…。最後に(決勝戦で)駿平が素晴らしいプレーを
してくれたのでそれがすごい嬉しかったですし、駿平が頑張ったのですけど、自分もやりがいを感じましたね。」

毎日22時の門限まで明かりが灯る分析部屋の様子を宇野明彦主務は「麟太郎が場を和ませてくれ、勝太がきっちり締めてくれる」
と見守ります。アナリストの二人も部屋の雰囲気や居心地の良さは大切にしたいと思いは一致、その中で互いの存在に感謝します。

「スタッフの仕事って面白くない…って言ったらいけないのですけど、そういう仕事が多いと思うので少しでも雰囲気だけでも
良くして、少しでも楽しく過ごせるように意識していました。僕はチームが沈んだら少しバカな事を言って盛り上げて、それを
勝太にまとめてもらう感じです。(言葉に出すのは)恥ずかしいですけど、居てくれて助かっている。先輩とかは、同期が
いない中で、僕らだけ二人いて…、僕は適当なところが本当にあって一人だけだったらまとめられないところ、僕の足りない
ところを全部埋めてくれています。」(鈴木麟太郎さん)

「勿論マジメにやるのですけど、僕だけだったら一生懸命になりすぎて面白みとかなくなりそうなところ、固くなってしまう
ところを麟太郎が分析チームを和らげてくれるので助かっています。分析も5人くらいでチームでやっているのですけど、
居心地が良くなるとみんな意欲的にやりやすくなると思っていますし、後輩達も僕達に意見をいってくれるのでそういう環境を
作れていると思います。」(瀬尾勝太さん)

分析チームの集大成は大学選手権準決勝・天理大戦。瀬尾勝太さんは相手のキーマン、NO.8ジョネ・ケレビ選手を徹底的に分析、
そのプレーの緩い部分を見つけ、映像を切り取って自ら発信。鈴木麟太郎さんも観客席で分析通りと手応えを感じます。

「言われてやったことで褒められたのも嬉しいのですけど言われずに自分から動いて行動して、それがハマったので嬉しかった
ですね。」(瀬尾勝太さん)

「分析がハマっていました。キックオフとかも奥に蹴るのとかがハマったりしていて、見ていても面白かったですし、最後に
して分析って大事なんだなぁ…と感じました。」
(鈴木麟太郎さん)

4年間を通じてグラウンドで頑張る選手から刺激を受けてきたと振り返る二人の存在をグラウンド上のリーダー齋藤直人主将は
試合以外の部分も含めて、そのサポートを感謝します。

「試合だけでなく、ミーティングとかも分析がビデオを撮っているので分かりやすく箇条書きにしてフィードバックして
くれたり、選手が理解しやすくしてくれました。特にラスト1年は、自分たちの要望にも応えてくれましたし、分析からも
『使える情報じゃないか?』とあげてくれたり。シーズンに入る前からそれをやってくれたので、色んなアイデアの中から
一番良いモノを選んでシーズンに臨めたので、優勝に欠かせない大事な存在でした。」

追い出し試合後に行われた予餞会の壇上、4年生一人一人が挨拶する中、瀬尾勝太さんは3年生以下にメッセージを送ります。

「選手あってのスタッフであって、頑張る選手がいての僕達分析の存在意義。特に分析は戦術面でチームの力になりたいと
思っています。選手から『相手の弱点、何?』であったり、そういう情報の事、ラグビーの事を聞かれると僕達はとっても
やりがいを感じるので、選手のみんなは分析を始めとするスタッフをもっともっと頼ってください。」

大学選手権優勝チームを支えた『分析力』をもっと活用してほしい…言葉が熱を帯び、我を思い出します。

「僕はもう(分析部屋に)居ないですけど(苦笑)」

勝者の文化の継承。12日から新チーム始動、後輩の分析スタッフの作業により、部屋の灯りが22時まで消えない日々が
またやってきます。【鳥越裕貴】



分析でチームを支えた鈴木麟太郎さん(左)、瀬尾勝太さん(右)。荒ぶるを勝ち取って。
「日本一を目指した事が今までの人生に無くて日本一になる事が本当に大変なんだなと分かりました。『荒ぶる』を
歌って、感動したのですけどその過程の方が今後の人生において大切なのかなと感じました。」(鈴木麟太郎さん)
「歌っている時は実感が無かったのですけど、その後にSNSとかで拡散されているのを見て、それが如何に凄いこと
なのか、とても貴重な事なんだなと…。それを体験できたことが幸せだったなと思います。」(瀬尾勝太さん)

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