回道

10月23日、前橋・敷島公園で行われた青山学院大戦。この試合を欠場した小林賢太副将に代わってラストイヤーで初めてアカクロスタメンで出場したのがPR小沼宏太選手。

「ずっと(小林)賢太の背中を追いかける形で今年はやってきたのですが、ワセダの1番の責任を果たさないといけないという事で緊張というかプレッシャーを感じました。」

水曜日のメンバー発表以降、緊張していたと話しながらも、立ち上がり前半4分にはラインアウトからの攻撃の流れの中でパスを受けるとディフェンスを振り切って先制トライを記録、自身公式戦初トライを振り返ります。

「自分の両サイドに二人いて、ボールもらうところまでは決まっていました。そこからは自分が行くかパスかの判断になるのですけどパスダミーした時に少し前が空いていると…少し強引にでもいきたいなと。やってきた形だったので、嬉しかったです。」

茨城・清真学園高校から浪人生活を経て入学、それでも自身の体力の低下と練習の厳しさから「自分には高い壁」と判断、ラグビー部にはプレーヤーではなく、トレーナーとして入部します。1年目、加藤広人主将が率いた2017年度シーズンは大学選手権3回戦敗退…悔しさに涙を流す先輩達の姿をスタッフとして間近で見るうちに気持ちに変化が生じます。

「負けているワセダの試合を見る時に(スタッフで)支える側では(何も出来ない)…。自分が戦えないのが歯がゆかったです。」

自分が戦う…改めてプレーヤーとして新人練習に挑戦し、2018年4月に再入部を果たします。高校時代のポジションであったBKでプレーヤーとしての再スタートを切るものの体の強さを買われて学年を経る度に背番号変更、CTB/WTBからNO.8、NO.8からフロントローへとポジションを変えます。ジュニアチームで経験を積み、入部当初から目指してきたアカクロが視界に入ってきたのは3年生の秋。

「去年の夏から秋にかけてB戦に出させていただいた時にもう一人前の選手を抜けば、アカクロを着れると思いました。」

迎えたラストイヤー、不動の左PR久保優選手(現NEC)が卒業したものの同期の小林賢太選手が背番号1にポジション変更、「まさかライバルになるとは思ってなかったですけど、超えなければならない壁」と決意を新たにしたものの、春シーズンはケガで出遅れます。それでも夏場に猛アピール、対抗戦開幕戦・立教大戦ではリザーブとして「5年目」でついにアカクロジャージに到達、試合前のロッカールームで感情が高ぶります。

「メンバー表を見た時に(アカクロを)着れるんだと頭の中で考えていたのですけど、アップが終わってロッカールームに帰った時に初めて着るという時に涙が出てきました。」

苦労の末に掴んだアカクロジャージを手放すことなくそこから4戦連続のメンバー入り、この日の初スタメンでは後半28分までプレーし、フィールドでは持ち味のボールキャリーでアピール、それでも課題はスクラムと改めて認識します。

「自分に一番求められているのはセットプレーの安定、特にスクラムだと思いますが、今日は全然…前半は特に上手く行かなくて…。自分のクセというか頭が若干落ちてしまって、押す方向に力が伝わらない部分がありました。」

試合途中に水係を務める権丈太郎コーチに悪癖を指摘されて修正、後半16分にはスクラムを制圧してターンオーバーするなど盛り返します。

「しっかりヘッドアップした上で押す…バックファイブの重さを伝えるというのを後半意識した時に結構いい形で押せました。それを最初からできていなかったのが課題ですし、そこが修正できないと賢太と同じ土俵には立てないと思います。」

浪人、スタッフ…と人より回り道をしてきた分、見える景色も少し違ったものに。

「こういう試合では全部準備してもらっているのですけど、トレーナー、マネージャー、分析…スタッフの方々が準備してくれないとここまで試合に集中するというのは出来ないです。毎試合、綺麗にロッカーとかが整備されているのを見ると本当に有難いと思います。」

裏方の思いも知る分、ラグビーが出来る今の環境に感謝の思いも人一倍。「スクラムが安定しないとBKも生きてこないですし、練習してきたアタックの形もできない」と”5年目”の集大成、ラストイヤーに懸ける小沼宏太選手がチームを縁の下で支えます。【鳥越裕貴】



突進する小沼宏太選手。小林賢太選手、横山太一選手ら同期とのポジション争いも激化。「最後までアカクロの背番号1を追い続けて、荒ぶるを取るまで今年のチームスローガンでもあるハングリーと言う部分を出していきたい。」

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