自我

11月23日、伝統の早慶戦。この大舞台で4年生にして初めてアカクロスタメン出場を果たしたのがHO原朋輝選手。

「アップの時からもそうだったのですけどいっぱい人が入っていましたし、早慶戦の雰囲気というのも初めて感じて楽しかったです。練習していたボールキャリー、タックル、スクラム…自分の強みを出せたのかなと思います。」

前半28分にはラインアウトからの連続攻撃、流れの中でスピードに乗ってパスを受けるとそのままディフェンスラインを突破、30メートル近くを独走してトライを記録します。

「帝京戦が終わってから練習していた形が出せました。いい形でボールをもらえてスピードに乗れて、目の前が空いていたのでいけるかなと…。トライした後の歓声とか仲間の祝福が嬉しかったです。」

GPSの計測も「カコイチ(過去一番)」と笑い、そのスピードを示す数値はBK並だったと振り返ります。

桐蔭学園時代のバックローから大学入学後にフロントローに転向、2年生時に対抗戦開幕からリザーブとしてメンバー入りするなど順調にステップアップしていたものの2年生の終盤に前十字靭帯断裂の大ケガ、3年生になって復帰したものの別の箇所を痛め、4年生になってからは再び前十字靭帯を痛めて春に手術…長期にわたる戦線離脱、更には復帰を果たしてもメンバーに選ばれない苦悩、当時を振り返ります。

「モチベーションを保つのも大変だったですし、去年(3年生時)とか最後ちょっと復帰して自分のコンディション的にも良かったのですけど、なかなか(チームを)上げてもらえなくて…『何で上げてもらえないのだろう』という気持ちはありました…。」

折れかかる心を支えたのはスタンドから見たアカクロを着て戦う仲間の姿、加えて同じ下のチームで頑張る仲間の存在でした。

「Aチームの試合とかみて、この舞台に立ちたい…と試合を見るたびに思いましたし、下のチームのメンバーとかと一緒に『上にあがろうぜ!』と声を掛け合いながらやってきました。」

迎えたラストイヤーは6月に戦線復帰したもののCチームが主戦場でBチームの公式戦であるジュニア選手権開幕後も出場機会なく。ようやくチャンスが巡って来たのは11月7日のジュニア選手権・帝京大戦。持ち味のタックルで体を張り、12年ぶりジュニア帝京戦勝利に貢献するとその活躍を評価されて一気にAチームの舞台へ。早慶戦メンバーが発表されるとスマホの無料通信アプリLINEに次々とメッセージが届きます。

「親とか知り合いとかが頑張れと声をかけてくれて…。早慶戦というのが普段とは違う試合だというのを実感しましたし、今までケガもあって色んな人たちに支えられてきたのでそういった人たちの為にも頑張ろうと思いました。」

ビッグゲーム前恒例の寄せ書きの儀式に書き入れた言葉は「楽」の一文字。ここまで苦しんだ分、精一杯楽しもうと決めてピッチへ。

「アカクロを来て試合にでて、その舞台がめちゃめちゃ自分にとって最高だという思いが再認識できました。これからも試合に出るということはぶらさずに頑張りたいと思います。」

掴みかけたチャンスを逃がすまいと言葉に力を込めます。部公式SNSで掲載中の「#荒ぶるへの想い」…4年生一人一人が色紙に言葉をしたためる企画で原選手が選んだ言葉は「エゴ」。日本人の感覚ではどちらかと言えばマイナスイメージで語られる機会の多い言葉に込めた想いを話します。

「僕が結構、漫画好きで最近ハマっているのが『ブルーロック』と言うサッカーの漫画です。エゴという言葉も『ブルーロックから』で、自分がどうしたい、どうすべきとかを体現する…最後まで自分の目標であるアカクロを着て試合に出るという事と、荒ぶるを取るという事…自分の思いを出し続けるという気持ちもあって、エゴにしました。」

同作品のホームページにある”世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれない”というキャッチフレーズ…サッカーだけでなく、日本スポーツ特有のチームワーク重視の考えに対して、違った角度で切り込む話題作の世界観と自身の想いを重ねます。利己主義に走るという考えは勿論なく、グラウンドを離れれば寮長という役職、部全体の規律を見渡します。

「長田組はラグビー以外の私生活の部分をしっかりしようと常々言ってきています。部室の使い方であったり、練習前の体重や練習が終わった後の疲労度とか記入ミスが多かったりするのを委員会で話しながら改善しています。自分がそれを言う立場なので率先してやる、人に見られているという立場を意識しながら私生活を過ごしています。」

ブルーロックで語られる「エゴ」がサッカー日本代表がW杯で優勝する為に必要な要素とされるのと同様に、原選手が「エゴ」を掲げるのも荒ぶるを掴み取るため。グラウンドでもグラウンド外でもチーム全体の模範となれるよう最後まで自分を信じて努力し続けます。【鳥越裕貴】



突進するHO原朋輝選手。早明戦に向けて「早慶戦ではFWがモールでやられました。早明戦はスクラムもラインアウトも接点も、FWが勝てれば絶対勝てる試合だと思うのでプライドを持って戦いたいと思います。」

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