愛情

2月6日、長田組追い出し試合。裏方でチームを支えた森谷隆斗主務もアカクロジャージを着て同期のメンバーと楕円球を追いかけます。

「ラグビーは楽しいなというのと、4年間で自分と関わってきた人たちが最後送り出してくれるというのは気持ちいいなというのと、あとやっぱり寂しいなというのと…。いろんな気持ちがありますけど、トータルとしてはスッキリしてここを出ていけるのかなという感じです。」

早大学院からSHで入部、下級生時代は目標とする齋藤直人選手(現東京サンゴリアス)の背中を追いかけてジュニアチームでパスを磨き続ける日々。上級生になると

「真面目で信頼できますし、全部を一生懸命やる。そういう性格を元々していたからこそ主務は森谷がいいなと僕も思いましたし、同期全員が思っていた。」(長田智希主将)

と仲間の後押しを受けて部のマネジメントを任されます。主務として多忙な生活を送りながらも

「グラウンドで4年生にしか与えられない影響というのがあると思っています。自分自身、過去の4年生から色んなことを学んできたので、それを後輩に伝えていきたい。」

という思いもあってプレーヤーとの二刀流を選択。難しい両立だと自身の中では理解した上で取り組んでいたものの限りある時間の中ですぐに綻びが生じます。

「1か月くらいプレーヤーと両立でやりましたが、春公式戦が始まって全然うまくいかなかったです。最初だからというのはもちろんあったと思うのですけど、曽我部さん(コーチ)からも『お前、大丈夫か』と心配頂いたり…。コーチからも『二刀流じゃない方が良い』という声も上がっていることも含めて色々話してくれました。」

全てに一生懸命取り組む性格が悪い方に出てしまい、自分自身を見つめ直します。

「自分1人と、チーム…同期30人。天秤にかけた時に全然同期の方が勝ったので、もう同期の為にそっち(主務)に全振りしようと思いました。」

長田主将、そして早大学院時代からの仲間に決断を伝えます。主務として部のマネジメントに専念、コロナ禍でも応援してくれる人達に近況を伝えられたら…とスタッフの中で約10人の広報チームを結成し、SNSで練習状況の更新を続けるなど「選手の一番カッコイイ姿を届けたい」と情報発信にも力を入れます。チームはその後上昇曲線を辿り、夏合宿では帝京、明治に連勝。

「選手を辞めたから、試合でチームが勝つのを見るのが心の支えでした。夏合宿とかたくさん勝ってくれたのでその度に頑張ろうと、そこの勝った最後のノーサイドとかが(思い出の)シーンとして浮かんできますね。」

チームの勝利に「ヨシッ!ここまでの準備は間違っていなかった」と自分達の仕事に自信を深めていくのとともに、同期の頑張りが森谷主務の感情を突き動かすことも。夏合宿のEチームの練習試合、長いリハビリ期間を経て約1年ぶりに実戦復帰した4年生WTB米田圭佑選手が次々とタックルをかわして独走トライ、総立ちとなるワセダ部員席の一番端で目頭を押さえます。

「あれはズルいですよね(苦笑)。僕の4年目は同期なくしてはなかったので、いろんな思いを抱えている米田とか佐々木奎介とかが活躍していると胸に来るものがありますね。同期が活躍するのはただただ嬉しい。ABチームが勝つのとはちょっとまた違う思いで、(役職とか)何も関係なくただただ嬉しい。」

グラウンドの事は長田主将に任せ、自身はその準備をスムーズにやるところを「命をかけてやっていた」…その姿勢は選手の側にも伝わります。ミニ合宿でチームの動き、時間の使い方を考える中で、選手の考えを聞こうと長田主将に相談するも、返ってきた言葉に全幅の信頼が寄せられている事を感じます。

「案が色々あってそれぞれの案にデメリットがある…選手目線での意見を聞きに行ったら、『お前が決めていい。選手たちに聞くのじゃなくて決められたことに選手たちが適用していくから』と話をされました。あいつは多分覚えてないですけど(笑)。」

下級生時代は「悪く言えば全員にいい顔をしていた」と振り返るものの、最終学年で物事の考え方が変わったと話します。

「ある人に言われたら『はい、できます』。違う人からオーダーがきて、さっきの人のが不可能になっちゃうかもしれない…でも『はい』って、言ってしまう…そういう事がありました。今は無理なものは無理と言いますし、この部は日本一を獲るという変わらない軸があったので、軸をぶらさずに考える事とか、物事を言う、行動をするというのが出来るようになったかなと思います。」

この1年で軸をぶらさずに生き抜く強さを身に着けたと話しながらも、根っこにあるのはずっと変わらぬ同期愛。

「バカばっかりなんですよ(笑)。みんなで集まって何かをする時も、みんなでそれぞれ勝手に喋っちゃうから全然まとまってくれないし…。でもみんなすごいいいやつだし、面白い。僕は同期がめっちゃ好きなので、ちょっと上からっぽくなっちゃいますけど、試合前は『行ってこい、お前ら!』みたいな感じでいつも送り出して、勝って帰ってきたら『よくやったっ!』…という感じで。そんな風に最後の方は思っていました。」

ハグするような仕草を見せながら笑います。シーズンが終わってから4年生だけで集まった時に仲間から言われた一言が刺されます。

「(主務は)お前にしか任せられなかった。」

同期に注ぎ続けた愛情への見返り、何度も嬉しかったと繰り返すその言葉が森谷主務にとって何よりの宝物です。【鳥越裕貴】



追い出し試合、長田組最後のプレーは森谷隆斗主務のコンバージョン。就職を控えて「軸をガーンと決めて、ぶれずに生きていくという生き方は僕がここで学んだことです。会社も組織だと思うので、フラフラしている人とはやりづらいと思います。一つ軸がしっかり通っていてこの人はこういう考え方をする人、こういう時に使えるかなと思ってもらえるような人になれればと思います。」

inserted by FC2 system