主将

2月6日、長田組追い出し試合。4年間袖を通し続けたアカクロジャージで最後のプレーを終え、長田智希主将は清々しい表情で答えます。

「あっという間だったという感じですけどいい4年間だったですし、ワセダを選んで良かったと感じています。」

一番嬉しかった事を尋ねるとしばらく悩んだ後に

「日本一を経験できたのは大きかったですね。自分たちの代でも取りたいというのはあったのですけどあの経験ができたのは先輩達にめちゃめちゃ感謝していますし、あとはもう同期含めて後輩も先輩もいい人たちに恵まれたというのが一番よかったと思います。」

ルーキーイヤーにWTBでアカクロデビュー、2年生時はCTBで大学日本一に貢献、ラストイヤーはチームを先頭に立って牽引。ワセダの中心であり続けた4年間を振り返ります。

「まずは選手として成長も出来ましたし、キャプテンをやってこれだけの大人数を引っ張るというのと伝統あるチームの先頭に立つということでプレッシャーとかも勿論ありましたけど、なかなかできない経験だと思いますし、色々成長できたかなと思います。」

東海大仰星高校時代にも100人規模の部員を率いて日本一になる経験をしていたもののその時より「また一つ大人になっている部員をまとめるのは大変だった」といい、チームとの向き合い方も大きく変えたと話します。

「高校の時は厳しくしてチームを引っ張る、無理矢理にでも連れて行く…そういうスタンスでやっていました。でも自分一人じゃ何も出来ないという事を学んだのと大学生になって余裕も出来て、厳しさだけじゃないチームに対しての向き合い方、みんなとしっかり意見を交換しながら、みんなと前に進んでいくというのを意識していました。」

変化は高校時代からの戦友・河瀬諒介選手も感じます。夏合宿で長田主将について聞かれると「まわりに求めるところは全然変わってないですし、まわりに厳しいところもそうですけど、一番変わったのはまわりの意見を聞き入れるようになったかなと。」

シーズン終盤には委員会で話し合い、部室の壁に「規律」「要求」「反応」と3つのキーワードを貼り出すなど、対話の中からチームの方向性を決めていきます。

「チームのことを決めるときにはリーダー陣に相談して、全員をよく集めて足りないところをどう思う?…という話をしたりだとか、まわりの意見を聞きながらチーム全員でやっていました。」

グラウンドでは長田主将が中心になって話すシーンだけではなく、それぞれのリーダーが円陣の中心で指示するのをじっと聞き入ることも。シーズン終盤はディフェンスリーダーのCTB岡ア颯馬選手、アタックリーダーのSO伊藤大祐選手ら2年生が積極的に発言する光景が多く見られるようになります。

「(彼らが)言いやすいように…と普段から関わる中で少しは意識していました。それこそ高校の時は下級生には目もくれずに、下級生がしゃべりにくい存在だったと思いますけどそうじゃなくて、特に試合に出ているメンバーは下級生とか関係なくやっていかなければならないので、関わり方は少し工夫していたかなと思います。下級生たちも遠慮が無い感じで、普段からどんどん来てくれていたので、意見に対してしっかり聞いて正しければ浸透させて…と、いいコミュニケーションが取れていたと思います。」

4年間、常にグラウンドの中にあった長田主将の姿が消えたのは早慶戦の後。1ヶ月の戦線離脱中、チームを違った角度から見てみると早明戦前日、試合に出られないメンバーの雰囲気に気になる部分があり、全員を集めます。

「試合に出ていないからこそ、出来る部分で引っ張るいい機会だと思っていたので、気になった事を話しました。4年生や出ているメンバーだけじゃなくて、下級生も含めて全員でやっていきたかったので、その意識を持ってもらいたいなと。全員で(試合前練習を)見ているのは何でなのか、この試合がどれだけ大事なのかという事を話しました。」

試合当日もアップで散らかったボールを自ら一つ一つ回収、チームの為に黙々と動きます。

「基本的にリーダーとして大事にしていたのは自分がまず動く、自分で動いてやるべきことを示してそこから『こういうのをやれよ』と言って…。自分がやっていないと、(まわりも)聞かないと思うので、そういうのは大事にしていました。」

グラウンドの中でも外でもチームの為に出来る事をただただやり続ける、『荒ぶる』だけをぶらさずに見据えて行動していたと話します。

「今年1年は結構きつかったですね、対抗戦で帝京に負けたりだとか自分たちが日本一を目指す中でなかなか上手く行かない部分が多くてしんどかったです。でも、大学日本一、荒ぶると目標が定まっていたので、とにかくやるしかないと、とにかく日本一だけを見て頑張ろうとやっていました。」

そうした姿を間近で見続けてきた森谷隆斗主務は

「グラウンドにおいてはあいつに任せておけば、絶対大丈夫という確信がありました。あんなに頼りになるやつはいないし、僕自身の悩みもちゃんと聞いてくれる…結構その悩みって葛藤だったりするのですけど、(道は)一本しかないんだからとブレない答えをくれる。」

周囲の意見を取り入れる柔軟性を身に付けつつも元々持っている芯の強さでブレなく戦い続けたラストイヤー、最後に後輩達にエールを送ります。

「細かい部分…ラグビーだけじゃなくて、それ以外、グラウンド外のところの私生活の面とかが大事だと思います。例えば部室をキレイにするとかグラウンドをキレイにするとか当たり前のことを当たり前にしてほしいですね。ラグビーのところでいうと色々と変わるところもあると思うので大変だと思うのですけど、大学日本一、荒ぶるという目標だけはぶれないと思うので、そこがぶれなければ問題ないと思います。組織をぶらさずにそこに向けて全員で一つにまとまってほしいなと思います。」

追い出し試合が終わり、記念撮影やジャージへのメッセージの寄せ書きの儀式が始まると、長田主将のもとにはAチームでともに戦ったメンバーだけでなく、ジュニアチームの1年生までもが列を作ります。一番最後までグラウンドに残って応対し続けていたその光景が、主将として後輩に与えた影響の大きさを物語ります。【鳥越裕貴】



東海大仰星出身組での記念撮影に収まる長田智希主将(左)。1対1の果し合いで前田選手(中央)から「高校時代はロボットだった」といじられ、「あれは言いすぎです(笑)」

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