卒業

3月20日、5年ぶりに結成されたオール早稲田での石川遠征。現役とOBの混成チームにあってそのパイプ役となったのが今季まで3年間学生を指導してきた権丈太郎コーチでした。

「(長尾)岳人もそうですけど、今まで関わってきた人たちとラグビーを出来て、彼らの最後の瞬間に居させてもらって本当に嬉しいですね。”おしこみ”とかジャージ授与式とかやって、やっぱりワセダなんだなと再認識しましたし、OBも現役もまたこうやってアカクロを着て頑張れるというのは本当に素晴らしいですね。」

トップリーグ(NEC)を引退してから3年ぶりのプレー。試合前は「5分持つかな…」と笑っていたものの、連続トライを奪われ、21-17と追い上げられた後半21分、一度ベンチに下がっていたPR小林賢太選手、FB河瀬諒介選手とともに流れを変える役割を期待されてピッチイン、学生よりも大きな声でチームを鼓舞します。

「スイッチ入るものですね。無理だろう、無理だろう…と思っていたのですけど、まだまだやれるのかわからないですけどスイッチは入りました。長田には『一緒にピッチに立つのは変な感覚で気持ち悪いっすね』と言われましたけど(笑)。」

2019年度に後藤翔太コーチとともにフルタイムコーチに就任、現役引退してすぐに始まったコーチ業に不安はあったと振り返りながらも、大切にしていたのは学生と真正面から向き合う姿勢。

「僕が現役だった頃に一番嬉しかったことは、信頼されているという感覚。彼らと一人の人間として、正直に接するという事、嘘偽り無くというのはすごい意識していました。」

上井草グラウンドに響き渡る大きな声で、常に熱量を持った指導を続けた3年間、チームを変える為にその年その年のキーマンとはグラウンドで話し込む時間も長く、時に厳しい言葉もぶつけます。

「いきなり入ってきて全員を変えると言うのはなかなか難しいと思ったので、そういう中でキーになってくるのが1年目だったら幸重、2年目は(丸尾)崇真、今年で言えば桑田。なるべく僕と近いような人間に対して『こう思うんだよ』と言うのをずーっと、ずーっとやっていたと。」

指導を受けた側の4年生LO桑田陽介選手もその熱量の裏側にある思いをしっかりと感じ取ります。

「今の時代、冷静に指導される方が多いと思うのですけど、その中でも昔から変わらない感情に訴えかけるラグビーを常に教えてくれた。大学ラグビーとしてプレーとはまた別の大事な部分を教えてもらえたので、僕自身もすごく信頼していました。(厳しい言葉も)そこまでして僕に教えようとしてくれた人は大学生活の中でも権丈さんしか居なかった…有難いですよね。」(桑田選手)

二人三脚で歩んできた3年間、桑田選手は試合毎に『最前線でとにかく体を張れ、そこだけをちゃんと見ているから』と言葉をもらい、ひたすら権丈コーチの教えを愚直に守り続けます。12月の大学選手権準々決勝の試合後にかけてもらった言葉が忘れられないと話します。

「自分の力不足でもあったので、本当に悔やむ部分が大きくありました。最後権丈さんに挨拶に行った時に『お前は何も悪くない。胸張って帰ろうぜ』と。最後の最後まで感情に訴えかける言葉で言ってくれた…本当に信頼していて良かった、この人で良かったと思いました。」(桑田選手)

常にブレない姿勢で学生に接し続けた3年間、プレーした20分の最後に待っていたのは学生からの思わぬ卒業プレゼント。後半36分、敵陣ゴール前でマイボールスクラムのチャンスを迎えると鍛え続けた学生達のスクラムがグイグイ前進、導かれるようにスクラム最後尾No.8についた権丈太郎コーチがインゴールでグラウンディング、権丈太郎コーチを中心に学生達の歓喜の輪が出来ます。

「トライまで取らせてもらえて嬉しいですし、幸せですね…それに尽きます。年甲斐も無くガッツポーズしちゃいました(笑)。彼らも勝って終われて良かったです。」

改めてワセダでの3年間を振り返ります。

「無我夢中に走ってきた3年間。今年勝てなかった事、勝たなきゃいけない年だったので、もっと僕が彼らに対して出来たことがあったんじゃないかと正直後悔とか悔いは残っているのですけど、ただやり切ったという思いだけはあります。」

試合後、現役を引退する長尾岳人選手、横山陽介選手に続いて胴上げに呼ばれるも、胴上げにならずに桑田陽介選手による『お姫様ダッコ』となって笑いがおき、その後は学生達が次々と記念撮影に来ては皆笑顔。

「そういう関係で終わることができてよかったと思いますね。少しでも彼らの良い青春に携わらせてもらえたというのが、幸せというくらいでしたね。選手達が自信を持ってグラウンドに立って、選手達が活躍する姿というのが常に嬉しかったです。」

学生と対等の目線で一直線に走り抜けた3年間、チーム長田の卒業遠征は権丈太郎コーチにとっても二度目のワセダの卒業式となりました。【鳥越裕貴】



自身が鍛えたFW陣と写真に収まる権丈太郎コーチ(右から5人目)。新チームに向けて「今年はスローガンが『Tough Choice』、自分たちがやらなければならないというのは分かっていると思うので、一生懸命頑張ってくれると思います。」

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